那覇地方裁判所 昭和53年(ワ)575号 判決 1980年12月18日
原告
平良ヨネ子
ほか一名
被告
大城盛弘
主文
一 被告は原告平良ヨネ子に対し金一一二万七一六八円及び内金一〇二万七一六八円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告平良恒夫に対し、金四〇万四三三六円及び内金三七万四三三六円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は七分し、その六を原告らの、その余を被告の各負担とする。
五 この判決は原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告ら
1 被告は原告平良ヨネ子に対し、金四四三万円及び内金四〇三万円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告平良恒夫に対し、金六五七万円及び内金五九七万円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言。
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者双方の主張
一 請求の原因
1 訴外亡金城正一郎(以下、加害者という)は昭和五一年八月六日午前〇時二〇分頃、被告を助手席に乗せて被告所有の普通乗用車(沖五二五二―六二)を運転して沖繩県島尻郡佐敷村字津波古内の国道三三一号線を佐敷方面から与那原町方面に向けて進行中、同村同字三〇二番地料亭吉乃屋前から右道路を横断歩行中の訴外亡平良秀信(以下、被害者という)に自車右前部を衝突させて、同人を路上に転倒させ、脳損傷によりその場で死亡させた。
2 被告は加害車を所有し自己のために運行の用に供していた。
3 本件事故により被害者が受けた損害は次のとおりである。
(一) 逸失利益 金二六七〇万六二六〇円
被害者は死亡当時満四〇歳で、建築業に従事し、毎月一八万九二〇〇円以上の収入を得ていた。同人は右程度の収入を将来二七年にわたつて得たはずであるが、同人は一家の支柱であるので、右収入から生活費三〇パーセントを控除し、ホフマン係数一六・八〇四を乗ずると逸失利益の現価は金二六七〇万六二六〇円となる。
(二) 慰藉料 金五〇〇万円
被害者は働き盛りの健康な男性であり、妻子をかかえて同人らと共に幸福な生活を送つていたのであるが、本件事故によつて無念の最後をとげた。
同人の精神的損害に対する慰藉料は金五〇〇万円が相当である。
4 本件事故により原告らが受けた損害は次のとおりである。
(一) 葬祭料 金三〇万円
原告ヨネ子は被害者の死亡による葬祭料として金三〇万円を支払つた。
(二) 慰藉料 金三〇〇万円
被害者は原告ヨネ子の夫であり、原告恒夫の父である。原告らの精神的損害に対する慰藉料は各自金一五〇万円が相当である。
5 被害者の損害賠償請求権金三一七〇万六二六〇円について原告ヨネ子は三分の一の金一〇五六万八七五三円を、原告恒夫は三分の二の金二一一三万七五〇六円をそれぞれ相続した。
6 しかして、被告に対し原告ヨネ子は金一二三六万八七五三円、原告恒夫は二二六三万七五〇六円の各損害賠償請求権を有するところ自動車損害賠償責任保険から金一五〇〇万円、加害者の父金城正三郎、同母金城百合から合計金一〇〇〇万円の各支払いを受け、右合計金二五〇〇万円の三分の一を原告ヨネ子の、三分の二を原告恒夫の弁済に充当した。
7 被告に対し原告ヨネ子は金四〇三万円(端数切り捨て)、原告恒夫は金五九七万円(端数切り捨て)の各損害賠償請求権を有するが、被告が任意に支払わないので、已むなく本件訴訟を弁護士に委任したところ、その報酬として原告ヨネ子は金四〇万円、原告恒夫は金六〇万円の支払いを約した。
8 よつて、被告に対し、原告ヨネ子は金四四三万円及び内金四〇三万円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の、原告恒夫は金六五七万円及び内金五九七万円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 1項の事実は認める。
2 2項のうち被告が加害車を所有していたことは認める。
3 3項は不知。
4 4項のうち原告らと被害者との身分関係は認め、その余の事実は不知。
5 5項は不知。
6 6項のうち原告らが損害填補を受けた点は認める。
7 7項は不知。
三 被告の抗弁
1 本件道路は「車歩道」の区別のある比較的整備された国道である。その日被害者は、事故現場近くで飲酒し、かなり酩酊し、ふらついた足どりで本件道路にで、これを横断するのでもなく、センターライン附近をふらついていたところを加害車に衝突した。
2 加害者は、飲酒運転の事実はあるものの、同人は被害者を発見以来、その動きをずつと注視し、自車の進路前方の「道路右端と中央線との中央附近」を右から左に歩いている被害者を見て、それを避けるためハンドルを左に切るなどの措置をとつている。
3 以上のとおり、本件事故は被害者の酩酊による誤まつた車道上の歩行が大きな原因であるので、過失相殺さるべきである。
四 抗弁に対する原告らの認否
1 抗弁1ないし3の事実は否認する。
2 本件事故は、加害者の飲酒による制限速度超過の運転に起因する。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 請求原因1の事実、同2の事実の内被告が加害車を所有していたこと、はそれぞれ当事者間に争いがなく、被告が加害車を自己のため運行の用に供していた点についても明らかに争わないから自白したものとみなされる。右事実によれば、被告は自賠法三条によつて原告らの損害を賠償する責任がある。
二 過失相殺の抗弁について判断する。
成立に争いのない甲第一、二号証、証人真栄田清徳、同金城正三郎(後記措信しない部分を除く)の各証言によれば次の事実が認められる。
1 本件道路は幅員八・五メートルのアスフアルト舗装された平坦な道路(国道三三一号線)で、中央にはみ出し禁止標示の黄色線が引かれ車道片側の幅員は三・三五メートル、その外側に九〇センチメートルの幅の歩道がある。事故地点から南方約五〇メートルのところでカーブになつていて見通しが悪く、事故地点から北方へ約一〇〇メートルのところに通称バクナー三差路がありそのところは見通しが悪く交通整理が行われている。車両の速度規制は毎時四〇キロメートルである。事故地点の近辺には横断歩道はない。現場附近は国道三三一号線に沿つて民家が密集しているが、昼夜を問わず人通りは少なく、車の往来のはげしい交通頻繁な地域であるが、夜になると車の往来も少なくなり、午後一〇時頃から殆んど交通は閑散になる。
2 加害者は昭和五一年八月五日午後六時ころから翌六日午前〇時頃までにかけて自宅や知念村の知名スーパー前でハイニツカを水割りで飲んだ。同人が当日飲んだ量はウイスキー三合瓶一本分位であつた。六日午前〇時頃同人は加害車を運転し、被告を同乗させて国道三三一号線を与那原方面に向つて時速約五〇キロメートルで走行した。本件事故の衝突地点より約二七メートル手前で被害者が進路前方の道路右端と中央線とのまん中附近を右から左に横断歩行して行くことを初めて認めたが、被害者の進行方向前方である道路左側を通過できるものと思つてそのままの速度で約二〇メートル進行した。さらに加害車が衝突地点の手前約八メートルの地点まで進んだとき加害者は、被害者が約一メートル位中央線に近づいて歩行してきたので、そのまま加害車を進行させると衝突する危険を感じ、左にハンドルを切つたが約八メートル進んだ中央線附近で加害車前部を被害者に衝突させた。加害者が当初横断歩行中の被害者を認めながら、危険を感じなかつたのは被害者と自車との距離の目測を酔いのために誤り、まだハンドルを左に切つて道路左側車線に出る必要はないと判断したからである。
3 被害者は同年八月五日与那原当添の伊集宅のスラブ打ちで飲酒し、更に他で飲酒したうえ本件現場の歩道から下り、車道を横断しているうちに中央線の附近で加害車に衝突された。
右認定に反する証人金城正三郎の証言は前掲各証拠に照らし措信し難い。
右事実によれば、加害者には法定の制限速度を守るべき義務、飲酒運転をしてはいけない義務に違反しかつ、横断中の被害者を二七メートル先に発見しながら、ブレーキを踏む等適切な事故回避の措置をとらずそのまま五〇キロメートルの速度で通過しようとした注意義務違反があることが明らかであり、一方被害者にも夜間道路を横断するに当つて接近して来る車両に対する確認を怠つた過失が認められ、両者の割合は加害者八に対し被害者二と認めるのが相当である。
三1 証人真栄田清徳の証言及び弁論の全趣旨によれば、被害者は本件事故当時四〇歳で、大工として建築の内部木工関係の棟梁をしており、日当七〇〇〇円で日曜日以外は毎日仕事をしていたことが認められる。右事実によれば一か月平均二五日稼働し一日の日当七〇〇〇円で、六七歳まで就労可能であつたもので、その生活費は三〇パーセントと認められるのでこれによりホフマン方式によつて逸失利益を算定すれば金二四七〇万一八八〇円となる。これに対し前二項の過失相殺をすれば金一九七六万一五〇四円となる。
2 被害者には妻として原告ヨネ子、長男として原告恒夫がいたことは当事者間に争いがなく、本件事故の態様、双方の過失の程度等一切の事情を斟酌すれば被害者の受くべき慰藉料は四〇〇万円が相当である。
3 原告ヨネ子が妻として被害者の葬祭を行つたことが推認されるのであるから、右金額は金三〇万円が相当と認められる。これにつき前二項の過失相殺をすれば金二四万円となる。原告ヨネ子、同恒夫が妻、長男として被害者の死亡により精神的苦痛を受けたことは明らかであり、これに対する慰藉料は、本件事故の態様、双方の過失の程度等一切を斟酌してそれぞれ金一二〇万円が相当と認める。
4 被害者の損害賠償請求権二三七六万一五〇四円について原告ヨネ子は三分の一の金七九二万〇五〇一円を、原告恒夫は金一五八四万一〇〇二円をそれぞれ相続したことになり、これに右3の損害額を加えれば原告ヨネ子は金九三六万〇五〇一円、原告恒夫は金一七〇四万一〇〇二円となり、これに対し、原告らは自賠責保険から金一五〇〇万円、加害者の父金城正三郎、同母金城百合から合計一〇〇〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないので右二五〇〇万円の三分の一を原告ヨネ子の、三分の二を原告恒夫の弁済に充当すれば原告ヨネ子は金一〇二万七一六八円、原告恒夫は金三七万四三三六円となる。
5 原告らが本訴提起を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであるが、弁護士費用のうち原告ヨネ子について金一〇万円、原告恒夫について金三万円を被告に賠償させるのを相当と認める。
四 よつて原告らの本訴請求のうち原告ヨネ子の金一一二万七一六八円及び内金一〇二万七一六八円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告恒夫の金四〇万四三三六円及び内金三七万四三三六円に対する昭和五一年八月七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める部分を正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒井眞治)